A GARAGE FOR LOTUS

愛車LotusExigeと過ごす伊豆山奥の隠居生活

STORY(8) - アプローチ

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そして工事は始まった。できる限り木を残すようにしてもらったが、それでもあたりの景色はガラリと変わる。N社長は週末に会う度に「露天風呂のこの石はちょっと手に入らないいい石なんだ」とか「このアプローチは10トン車が載っても壊れない設計だ。その辺の県道なんかよりずっと頑丈だ」とかいろいろ自慢する。頼みもしないのに、たまには女性が入ることもあるだろうからと勝手に露天風呂の周りに目隠しの柵を作ったり、アプローチが凍って歩けないときのためにと裏手に別の階段を作ったり、工事用の重機を通すために木を倒した跡には、添え木までして若木を植えたりしている。まるで自分の別荘だ。

「アプローチが完成しました。週末に見に来てください。入口にロープが張ってありますけど構わず上がって試してください。」とN社長から電話があった。いつもの通り早朝に着いた私は、果たして愛車のアゴは大丈夫か試そうとロープに手をかけた。1時間半以上たってN社長がやって来た。「えっ、ダメでしたか? 擦っちゃいます?」彼はアプローチの手前に停めてある私の車を見て慌てて尋ねた。「いや。社長が来るのを待ってた。」と答えると、すぐにN社長は私の意を理解してくれた。以前から彼が私の車のアゴの高さやサイズをこっそり測っていたこと、彼の娘のシャコタン車をここまで持って来てエクシージのアゴの高さにダンボール貼って上り下りしていたこと、施主である私に最初に完成したアプローチを上がって欲しいがために、週末までの間わざわざロープを張って私より先に工事関係者の車が上がってしまわないようにしてくれていたことを私は知っていた。彼の職人気質がうれしかった。私もそんなN社長にエクシージが最初に上がるところを見て欲しくて彼が来るのを待ったのだ。アプローチは完璧だった。アゴは擦らなかった。だが、ギリギリである。そのギリギリさが彼の仕事の緻密さを表していた。彼は鼻高々だった。

その後、建物の方もいろいろあったが、それは折に触れて書いてゆこう。ともかく、船が遅れて最後になったガレージドアが取り付けられてやっと引き渡された。

こうして私のガレージは完成した。ここには書けない事情も沢山あったが、大筋はこんなところである。随分と予算もオーバーしてしまい、借金もかさんだが、命までは取られまい、最悪は生命保険で何とかなる、他人に迷惑をかけずに済むなら、まぁ、いい。どうしようもない私の性格である。

だが、こんな私も初めてここに泊まった夜は、さすがに後悔した。(つづく....)