A GARAGE FOR LOTUS

愛車LotusExigeと過ごす伊豆山奥の隠居生活

STORY(10) - 一念発起

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あれから早2年が経った。生けるものの生命力に圧倒される春、下界の暑さが嘘のような涼しい夏、想像を絶する量の落ち葉と格闘する秋、じっと春を待つ極寒の冬。蟻や蛾やコオロギの襲来、大雨・雷・台風・大雪・氷との戦い、飛び出してきた鹿との衝突事故、水道の凍結など、訪れる度に何か事件が起きる。愛車の整備用工具で飾りたてようと思っていたガレージは、今やチェーンソー、丸ノコ、シャベルにツルハシといったD.I.Y道具で足の踏み場も無い。外に作った来客用駐車スペースは、枕木やレンガや砕石や塗料の缶などの置場と化している。湯沸器のパッキンひとつ替えられなかった都会人も、自分しか頼る者がいないとわかれば、何とかしようと一念発起するものである。ぬかるみがひどければ枕木を敷き、水はけが悪ければレンガで排水路を作る。蛾や虫が入ってくるなら網戸だってお手製である。格好なんてどうでもいい。触ったこともなかったチェーンソーで丸太テーブルや椅子を作る頃にはそれが楽しくなっている。もちろん、その陰には、1個10円もしないゴムパッキンの為に吹雪の中、麓から1時間もかけて来てくれた地元の水道工事屋さん、散歩の途中でご挨拶をしただけなのに10分も歩いて自分で採った山菜のてんぷらを持ってきてくれたご近所さん、近くまで来たついでに声をかけてくれる地元の電器屋さん、ネット通販で買った些細なものをこんな山の中まで運ばせられた上についでなんだからとバス停まで乗せてゆけと言われる宅配便のお兄さん、雪が降ればすぐに除雪に来てくれる管理センターのスタッフ、そして誰よりも、なんだかんだと理由をつけては、それとなく毎週のように様子を見に来てくれたN社長。こうした地元の人たちの支えがあったことを忘れない。

「こんな寂しいところで、強盗でも来たらどうするんだよ」と訪れる友人たちは驚くが、「だったら、渋谷のセンター街は安全か?」と言い返してやれるほど、今では1日中人間に遭わずに過ごせるここの生活が楽しめるようになった。とりわけ雪景色の誰もいない森が一番好きになっている。そうそう、初めてここに泊まった日。あとで聞いたのだが、選りも選って、あの日はその冬どころかここ数年の間で一番寒い日だったそうだ。思いつくままにこんな所にガレージを作ってしまった変わり者の都会人への、この山からのちょっとしたご挨拶だったようである。
(つづく,,,,,)